#001NHK スペシャル「人類誕生」ドラマパート制作で大切にしたこと 

人類が誕生にいたるまでの進化の過程を描いたドキュメンタリー、NHKスペシャル「人類誕生」シリーズ。2018年4月から7月の放送当時より大きな反響を呼んだこのコンテンツは、放送後にNHK のYoutubeアカウントでそのハイライト動画4本が公開され、合計で1億4000万回以上の再生回数 *1を突破。世界的な注目を集めている。
そのCGとVFXで構成されたドラマパートの制作をリードしたのは、スクウェア・エニックス・グループの株式会社Luminous Productions。ソニーPCLは、ドラマパート全体のポストプロダクションと、ライブアクションパートの制作を担当。ロケ地選定、撮影、美術、キャスティング等をトータルでサポートしている。今回の様々な挑戦について、チームとなってコンテンツ制作に取り組んだLuminous Productionsの綿森勇氏と小材龍平氏、ソニーPCLの石川智太郎、越野創太に訊いた。(以下、敬称略)
※1 2018年10月1日現在

過去に例が無いほどの 大規模なプロジェクトになった



――「人類誕生」における、それぞれの役割を教えてください。
小材 僕は、もともとスクウェア・エニックスのゲーム内のムービーを制作するチームに所属していました。2016年に「FINALFANTASY XV」の関連作品となる劇場公開の長編作品「KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV」(以下キングスグレイブ)のプロジェクトマネージャーを担当した流れから、今回の「人類誕生」ではプロデューサーを務めることになりました。NHKとの初期段階のお話から制作工程、放映直前まですべてに関わっています。

綿森 私は、ドラマパートの企画/演出を担当しています。これまでの私たちチームは、フルCGのプロダクションとして評価をいただいてきました。しかし今回のプロジェクトの話を聞いた時に「ぜひライブアクションを取り入れたい」と思ったので、実現できるエキスパートたちとチームをつくりました。撮影と仕上げのパートナー候補として、真っ先にソニーPCLを挙げたことを覚えています。制作を進めていくにつれて、スクウェア・エニックスでも過去に例がないほどの大規模なプロジェクトになっていきました。

石川 僕と綿森さんたちとは、「キングスグレイブ」のポストプロダクションからお付き合いが始まりました。当時、かなり綿密なワークフローを一緒に構築したこともあり、そこで培った共通理解があったから、今回のプロジェクトに参加させていただいたと思っています。「人類誕生」は、CGのみのパートと、ライブアクションと合成したVFXパートで構成されています。それぞれをどのように制作していくのか。プリプロダクション、制作、そして最終的にNHKへ納品する素材を仕上げるところまでの技術コーディネートを、トータルで担当しました。

越野 僕は、主にライブアクションパートのディレクションを担当しました。もともとオーストラリアにいた経験も活かして、現地スタッフやロケ地をコーディネートしたり。綿森監督のイメージを、いかに海外の撮影スタッフ全体と共有し実現していくかという動きをしています。

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    綿森 勇
    株式会社Luminous Productions ディレクター


    1973年生まれ。大阪芸術大学卒業後、CMやドラマのVFXに携わる。2005年 スクウェア・エニックスに入社。コンポジットマネージャーとしてゲーム内映像等に携わり、2016年劇場公開映画「KINGSGLAIVE FF15」では、コンポジティング&ポストプロセッシング・スーパーバイザー、最終品質管理を担当。また、同作の4K/HDR版制作を指揮。第29回東京国際映画祭で公式上映され、高く評価された。2018年OA「NHKスペシャル人類誕生」ドラマパートのディレクターを務める。現在は、スクウェア・エニックス・グループから2018年4月に発足した株式会社Luminous Productionsに所属。

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    小材龍平
    株式会社Luminous Productions プロデューサー


    1979年生まれ。2007年 スクウェア・エニックス入社後、情報システム部門にて開発用インフラを担当。ゲーム・映像制作の基礎を学ぶ。その後、CG映像制作のプロジェクトマネージャーとして、「キングダム ハーツ」シリーズ、技術デモ「Agni’s Philosophy」、2016年劇場公開映画「KINGSGLAIVE FF15」などに携わる。2018年OA「NHKスペシャル人類誕生」ドラマパートには、プロデューサーとして企画から関わっている。現在は、スクウェア・エニックス・グループから2018年4月に発足した株式会社Luminous Productionsに所属。


世界と戦える映像 を 日本から発信する


小材 今回は、映像の設計段階からソニーPCLに参加してもらい、本当にイチから一緒につくりあげました。僕たちのこれまでの専門はフルCGです。そこに、ソニーPCLが持っている実写のノウハウを加えていった。CG制作の感覚で考えた演出は、特にカメラワークなどが実写だと難しいようなものもありました。でもそれを、驚きと想像を超えるような結果に変えていくことができました。

越野 CGと実写のカメラワークは、本当にまったく違いますね。綿森さんが持ってきたプリビズ *2は、映像の作り方に対する発想が、僕らの考えるものとはまったく違った。それを実写で実現可能なことに単純に変換するのではなく、どうやって実写で再現するか、CG的な発想をどう大切にするか。そこが、今回僕たちのとても大きなチャレンジでした。とはいえ、綿森さんたちの理想形がつまったプリビズを大事にするといっても、そもそも実写では実現しないようなカットの連続でした。そんな高いカメラ位置から撮れるようなクレーンは存在しないよ!ということもあったし、逆にこの角度から撮りたいなら、地面に穴を掘らなくてはいけないということもあった。「このスピードが理想です」と言われたカットのカメラスピードを見たらマッハって書いてあったりして(笑)

綿森 よく無茶な要望をしたと言われます。でも、当時から僕は不可能なことを言っているとは、まったく思っていませんでした。もちろん、そこに向かう困難はあります。ただ、前職で実写に携わっていた経験もあり、CGと実写には必ずお互いに変換できる文法、言葉や数式があると思っていました。当時のスクウェア・エニックスは、フルCG作品を中心に実績を残してきた経緯もあり、どんな映像もCGで制作すべきという先入観もあったと思う。それを取っ払ってできることに取り組めば、きっと結果を残せるという自信はありました。

越野 今回、Luminous Productionsらしいアイデアや、エンタテインメント性を殺さないことを、なによりも大切にしました。それを実写としてどう再現するかができなかったら、僕らを選んでくれた意味はないとさえ思っていた。可能な限りNOとは言わずに、想いをぶつけ合いながら同じチームとして最後まで作品を作り上げられたことは、僕にとって財産になりました。

※2 プリビズ CGやVFXコンテンツを制作する際に制作される、ビデオコンテのこと。



――チームとしてひとつの作品を作る際、大切にしたことはありますか
石川 会社の枠を超えたチームを組む時には、体制や構造をどう組み立てたとしても、結局は直接的なコミュニケーションが一番大切になります。今回は、プロデューサーの小材さんと、撮影現場で「何ができるのか」「何を大事にして進めるか」と、イメージや認識を常に共有していくことが必要でした。

小材 それぞれの会社が持っているポテンシャルと、携わるスタッフ個人のスキル、両方を最大限発揮できるように持っていきたいという想いが強かったですね。今回のコラボレーションで目指すのは、世界と戦えるコンテンツを作ること。限界を突破していける映像を作るために、NHKのリサーチ力や番組構成力も併せて、各社が能力を持ち寄って初めてそれが可能になると考えていました。

綿森 僕は信頼が大切だったと思っています。指示を出すときには、「ここの部分は守って欲しい」というポイントだけを伝えるように、心がけました。僕は歴史上の天才的な映画監督ではないので、全部をこの通りに作って欲しいという指示は出せない。みなさんの協力をどうしても仰がなくてはならないのです。そうすると信頼できる方々に任せるしかない。今回も、ものすごくポジティブに取り組んでくれました。そこに信頼関係があったので、後はきちんとイメージ通りのアウトプットかを確認することだけでした。

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    石川智太郎
    ソニーPCL株式会社 チーフテクニカルディレクター


    1967生まれ。東京芸術専門学校でグラフィックデザインと現代アートを専攻し、1989年、ソニーPCL入社。ハイビジョン編集のアシスタントや、HDペイントマシンによるマットペインティングや合成を担当。CGデザイナー・VFXコンポジター、ディレクターを経て、現在はテクニカルスーパーバイザーとして、主に映像技術のトータルワークフローの構築を手がけている。近年の担当作品は、劇場公開映画「KINGSGLAIVE FF15」、スペシャルドラマ「返還交渉人」、「NHK スペシャル人類誕生」など。映画・TVドラマ・PV等関わった作品多数。

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    越野創太
    ソニーPCL株式会社 ディレクター/カメラマン


    1981年生まれ。シドニー大学映像学科で修士号を取得。オーストラリアで、CMやミュージックビデオの撮影部として活動。2009年にソニーPCL入社。3Dや4Kなど先端技術を活用した映像制作に多数携わる。2015年、自ら4Kカメラを携えジェット戦闘機に乗り、成層圏からの地球を撮影したドキュメンタリー作品「BLUE HORIZON」を制作。’17年には、世界最大の洞窟に挑む「THE GREAT BELOW」を制作、「NHK スペシャル人類誕生」ではライブアクションディレクターを担当した。



誰も見たことがない光景を 最新の映像技術で描く



――今なお進化しつづける映像技術で、どういったことを表現していきたいですか?
小材 もう何年かすると、VR空間が必ず映像のスタンダードな表現のひとつになると思っています。そうすると、合成はプリレンダーではなく、リアルタイムに近づいていく。その時代までに技術の底上げをして、本当に実写なのかCGなのかわからないようなVR空間の映像を作り出すことを、目標においています。

越野 僕自身、ゲームなどのファンタジーからインスピレーションを受けて育ってきたこともあって、今度はどういうものを今の子どもたちに与えられるのかを考えています。恐竜の映像でも、「人類誕生」のような昔の世界を表現するものでもいい。今存在しないものをリアルに見せるためには、CGやVFXの力が必ず必要になります。何か別の世界をリアルに再現できたら、とてもおもしろいですね。それを表現することに適しているなら4Kや8Kなどの規格外高精細映像を活用したい。先端技術だからいいってものではないですよね。まずはフォーマットではなく、表現から技術を選んで、おもしろい体験をつくりたい。

石川 そうですね。生み出したい映像表現に合ったデバイスの使い方がある。その力を引き出すためにこそ、それぞれの映像フォーマット技術を扱っていきたいです。例えば小材さんが言うようなVRの世界。その視界の中にはセンシング技術を駆使した、ある意味でのコミュニティがそこに現れるのだと、僕は思う。そうなってくると、求められることは映像表現ではなくなってくる。そういったデバイスで、単純にカメラで撮影した映像を見せるだけだと、先が見えてきてしまいます。この表現や世界観には、8Kというフォーマットが活きるかもしれない、HDRかもしれないというスタンスで、楽しく技術と向き合っていきたいです。

綿森 今後は技術を編集する、という立場でありたいですね。実写やCGといったカテゴライズをすること自体がナンセンスになってきて、結果的にはユーザーがどうやって楽しむかというところが大切です。一方で、コンテンツを作るときは、実写にしてもCGにしても、その専門家がパートナー、あるいは友人としていてくれないと僕は困ります。ここに集まってくれた、そして今回の作品に協力してくれた方々には、どうぞ先端技術について悩んで欲しいです。僕はそこから出てきたおもしろいものを使わせてもらいます。

対談の最後、綿森氏は「もし次回作を監督する機会に恵まれて、また同じメンバーに よーい、スタート! って言えたら、僕は感慨深くて泣いちゃうと思う」という言葉を残し、越野は「作品を評価してもらえることは嬉しい。でも、カメラが回る直前の スタンバイ の声がかかる瞬間が、一番おもしろい」と映像制作の魅力を表現していた。映像技術が進化を続けるなか、彼らは次の表現に何を選ぶのか―。次回作を楽しみに待ちたい。